アーチェリー物語【親子編】エピローグ、あとがき



エピローグ

透き通った青空から降り注ぐ陽が、ポカポカと暖かく気持ちいい。

湿っぽかったタオルは乾いてきた。

緊張感から解き放たれた試合会場は、あちこちから話し声や笑い声が聞こえる、和やかな空間に変わっていた。


少し離れた所で、玲子は他の保護者と談笑している。

琉乃の視線に気づくと、ニッコリ笑って、小さく手を降ってくれた。

そっとしてくれる気遣いに感謝して、手を振り返す。


さっきまで、大峨のもとに飛んで行って、思いっきりハグしたい気持ちだった。

それも少し落ち着いてきた。

(これなら、普通に迎えてやれそうだ)


琉乃はバッグからスマホを取り出し、電源を入れようとした。

すると、先生と話し終えた大峨が歩いてきたから、そのままバッグに戻した。


琉乃と目が合うと、突然、大峨はフラフラと千鳥足になる。

「あぁ~~~、あと二点足らんかった〜」

ガックリと肩を落とし、ノロノロ、ヨタヨタと歩きながら、なげき声を絞り出す。

「ミスっだぁ〜、ぐやじぃ〜〜〜」

周囲の目は気にせず、今の気持ちを全身で演じている。

ニヤけながら、悔しい顔を必死に作ろうとしている。

おかしな顔だ。

琉乃は思わずプッと吹き出し、大げさに額に手を当てた。

(なにやってんだ、この子は……。でも、大峨のおどけた姿を見るの、久しぶりだな)


爽やかな風が吹き抜けた。


「けど……、四位って、結構すごくない? お母さん!」

目の前で、いたずらっぽく微笑む息子は、金メダルよりキラキラと輝いていた。


琉乃は、「よく頑張ったね」と言おうとした。

でも、声にならなかった。


(終わり)



あとがき

アーチェリーは地味なスポーツです。
派手なホームランやゴールシーンはなく、同じ動作の繰り返しが続きます。

予選や記録会で何十人も並んで射っていると、見ただけでは勝敗も順位もわかりません。

そんな地味なスポーツの親が主人公で物語が成立するのか、最初は不安がありました。

しかし、それは杞憂でした。
主人公が親だからこそ、書けることが多くあったのです。


アーチェリーは競技であり、試合に出るからには、順位や結果がはっきり出ます。
でも、それがすべてではありません。

特に、親子で取り組んでいる場合はそうです。
親は子育てや教育で、子どもがアーチェリーで経験しているより、多くのことがあります。

送迎だけでも大変なのに、アーチェリーの悩みが加わり、目が回るほど慌ただしい日々が続くこともあると思います。

さらに、子育てや教育には正解も万能薬もなく、試行錯誤の連続です。

でも、そうした経験は、後の財産になります。
試合の順位や点数が良いに越したことはありませんが、親子で取り組んだ日々が大切です。


鶴中親子は、最後の試合で目標に届きませんでしたが、かけがえのないものを手に入れました。

そうして一緒に頑張れば、必ず何かを得るはずです。

アスリートコースのメンバーと保護者、親子でスポーツを頑張っている皆さん、そして、親子で何かに本気で取り組んでいる方々にエールを送ります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。





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