アーチェリー物語【親子編】21. 変化
「準優勝!」
続いて、メダルを掛けた写真が送られてきた。スマホが小刻みに震えている。
今日は全国中学生テニス選手権大会。
メダルの可能性はゼロではない。でも、まだ二年生なので、それほど期待してなかった。
期待しすぎるのは良くない。身にしみてわかっているからだ。
それが、銀メダルとは!
しかもメジャーなスポーツで。
驚きと嬉しさで頭は軽くパニック。ブルブルと震える手で返信する。
返信が終わっても、琉乃はスマホを凝視したまま。その場でしばらく固まっていた。
しばらくすると、胸の高鳴りは収まる。
冷静さを取り戻す前に、こみ上げてくる嬉しさで全身が弾けそうになる。
落ち着くには、まだ時間がかかりそう。
また写真が送られてきた。試合中の一枚だ。
ボールを打つ瞬間の写真を見つめる。
右手には愛用のラケット。違和感が全くない。右手の一部のように馴染んでいる。
ラケットを買い替えてから、一段と調子が良くなった。そのラケットは長男が選んだ。
買い替えのタイミングも何もかも長男が決めた。琉乃は値段すら見ていない。
それは、長男を信頼して任せているから。
テニスの道具だけではない。日常生活でも長男を尊重し、任せている。そういう形で、ずっと応援してきた。
大峨はどうだろう?
長男のラケットと同じ時期に、ハンドルを買い替えた。半ば強引に勧めて。
二歳違うので、まだ自分で考えて判断するのは難しい。何もかも任せるのは早い。だから、親がリードするのは当然。
正反対ともいえる性格。明るく活発な長男に対して、普通でおとなしい次男。だから、親が引っ張るのが普通。それが応援。
今までは、そう思っていた。
でも、年齢や性格が違うとはいえ、違いが大きすぎるのではないか?
正反対ともいえる応援でいいのだろうか?
あらためて長男の写真を見つめる。そして、次男の試合の写真を見つめる。
準優勝の興奮は落ち着き、冷静に判断できるようになってきた。
……やはり、何か間違っている。間違いでないとしても、正しくもない。
急に心臓がドキドキしてきた。さっきの胸の高鳴りとは正反対。
考え方、行動、何かを大きく変えなければならない。それは間違いないだろう。
琉乃は、自然に意思が固まったのを強く感じた。
いつもは、扇風機とスポットクーラーの音が会話の邪魔をしている。少し離れていると、大峨の声が聞き取りにくいことがあった。
ただ、最近は問題ない。声が大きくなったからだ。
調子は上がらない。でも、最近は明るくなり、やる気がアップしている。楽しみながらやっているようだ。
「今日も最後まで練習する」
「わかった。頑張って」
何気ない短い会話も、以前より信頼関係、つながりを感じる。
あれから具体的に何かを変えたわけではない。
考え方、行動、何かを大きく変えなければ。そう思っていたのに、まだ実行できていない。
以前より口を出さないようにしている。
大峨の気持ちを尊重し、厳しさより楽しさ。リードしすぎないように……。
あの事件以降、これらは意識している。
それって、つまり……。
自分自身が少しずつ変わっているのではないか?
その変化が、自然と大峨に伝わっているのではないだろうか……?
急に目の前の扉が開いた。
間違いに気づき、何かを変えなければと思っていた。そうじゃない。
「無理に何かを変えるんじゃなく、自分が変わることが必要だったんだ!」
思わず小声で叫ぶ。
聞こえたのかどうか、矢取りから戻ってきた大峨と目が合った。
変えるのではなく、変わる。
同じ変化でも意味が全く違う。
琉乃は大峨の背中を見つめながら、新たな「つながり」に小さな幸せを感じていた。